絵本作家・中村まふねさん/ミュージカル「かけめぐる。」ビジュアル制作秘話(後編)

先週に引き続き、絵本作家の中村まふねさんにお話を伺いました。
今週は、中村まふねさんが描かれた絵本と、Tokyo EHON座の座員や児童文学に興味のある方々に、特におすすめしたい4冊の書籍をご紹介いただきました。

―2022年に発行された『種をあつめる少年』は、購入して家族で大切に拝読しています。『とおのちいさなとびらのむこう』については、オンラインではどこも完売していて、実は今日初めて手に取ることができました。触れてみると手触りがとても良く、温かみを感じます。

実は、職人さんがすべて手製本で製本しているので、出来上がるまでにとても時間がかかるんです。そのため一冊一冊、小さな違いもあります。

―そうなんですね。確かに、手に取るとまるで赤ちゃんを抱いているように、大切にしたくなる気持ちが自然と湧いてきます。先週の記事でもお話しいただきましたが、中村まふねさんが「本棚の中にいろいろな世界線がある状態が好き」という言葉がとても印象的でした。今日は、Tokyo EHON座の座員のみなさんや、児童文学に興味のある方々へ、何冊かおすすめの書籍をご紹介いただければと思います。

おすすめしたい本は本当にたくさんあるのですが…今日は4冊持ってきました。

1冊目は、オトフリート・プロイスラー作のグラバート(上・下)です。
中学か高校の頃に読んだ作品で、とにかく表紙の絵の雰囲気が大好きでした。作品全体を覆う霞がかった重い空気が本を閉じても余韻となって、心にのこる作品です。

●グラバート(上)(下)(オトフリート・プロイスラー)
荒地の水車場の見習いになった少年クラバートは、親方から魔法を習うことになる。ドイツの一地方に伝わる伝説を描く壮大な物語。

―続いて、2冊目のご紹介をお願いいたします。

ミヒャエル・エンデ作の『モモ』です。
『かけめぐる。』の台本を読ませていただいた時に、ふと頭をよぎったのがエンデの『モモ』でした。
時間を取り戻す物語と、感情を取り戻す物語。⻲とエリマキトカゲ。対⽐的に思える要素がいくつもあって、どちらもそれぞれに⼤切なことを思い出させてくれる作品だと思いました。有名な作品なので、既にお読みになった⽅も多いかと思いますが、子どもはもちろん、大人の方にも、時間をかけてゆっくり味わってほしい物語です。

モモ (ミヒャエル・エンデ)
廃墟となった円形劇場に住みつく、粗末な身なりの少女モモ。街の人々は相談し、モモの面倒を見ることにします。
モモに話を聞いてもらうと、固くなっていた心がほぐれ、悩みが消えていく……。不思議な力を持つモモは、次第に街の人々にとってかけがえのない存在になっていきます。ところがある日、「灰色の男たち」が街に現れます。
「時間を貯蓄銀行に貯めると命が倍になる」と言う彼らのせいで、町の人々から「時間」が奪われてしまい――。

―3冊目のご紹介をお願いいたします。

3冊⽬は、猪熊草⼦さん著書の「⼤⼈に贈る⼦供の⽂学」です。
最近は物語そのものではなく、物語の時代性、物語の作り⼿や描き⼿の⼈⽣や性格など、その作品が誕⽣した背景に興味を持つようになりました。当然といえば当然なのですが、作家それぞれに百⼈百様の制作スタイルや苦悩、哲学があって、単純にそのことに励まされます。著者が⻤籍に⼊り、古典となっている名作も多いなか、こういった研究者の⽅の著作を読むことで、単にエンターテイメントとしての読書から、物語の向こう側にいた作り⼿のこころに触れる読書ができる気がして、最近は著者の⼈⽣やその⼈間性も含め、物語や本という存在を愛しく感じています。猪熊葉⼦さんの品のある⽂章が読んでいてとても⼼地よく、作品それぞれへの愛情が深く伝わってきて、児童書について書かれた本の中でも特にお気に⼊りの⼀冊です。

⼤⼈に贈る⼦供の⽂学(猪熊 草⼦)
「本の楽しみや慰めがなければ、子ども時代を生き抜くことはできなかった」と語る著者は、児童文学研究者となり、優れた作品や評論の翻訳に情熱を注ぎました。子どもの文学の価値を明らかにし、大人たちにその重要性を知ってもらいたいと願い続けて60年。子どもに向けて書く作家たちの真髄に迫り、幸福を描く多様な物語の世界へと読者を誘います。

―4冊目のご紹介をお願いいたします。

最後に紹介するのは、安房直⼦さん著書の「春の窓」です。
安房直⼦さんのうつくしく丁寧な⽇本語で綴られた、⾊彩豊かで幻想的な短編の数々。いっけん昔話のようにはじまるお話も、登場⼈物のこころの機微がこまやかに描写され、儚くて、不思議で、いつまでも古びない、宝もののような作品たちです。安房さんの紡いだあたたかい物語が、1ファンとして、今後もずっと読み継がれてほしいと思います。

春の窓(安房 直子)
どこかなつかしい⾝近な⽇常からはるかな空想の時間へといざなう安房直⼦ファンタジー。
売れない絵かきの家を訪れた不思議な猫の魔法を描いた表題作「春の窓」をはじめ、⼼を静かに整えてくれる⼗⼆編を収録。⼤⼈の孤独や寂しさをやわらかく包み込み、何度も読み返したくなる切なくも美しい極上の短編集。

―中村まふねさん、たくさんの本をご紹介いただき、ありがとうございました!
また、このたびは素敵な『かけめぐる。』のメインビジュアルを制作していただき、心より感謝申し上げます。座員の皆様はもちろん、児童文学を読んだことがないけれど興味がある方や、久しぶりに本を読もうかな、と思っている方も、ぜひこの秋、お手に取ってみてください。

(取材・文/Tokyo EHON座 事務局・取材写真/時枝 千晶 @chiakihlc)

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前半の記事では、ミュージカル「かけめぐる。」 のイメージ制作のお話や舞台の感想等について詳しくお話ししていますので、ぜひこちらもご覧ください。
→絵本作家・中村まふねさん/ミュージカル「かけめぐる。」ビジュアル制作秘話(前編)

中村まふねさんのプロフィールや作品集をご覧いただけます。
→中村まふね プロフィール・作品集

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